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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和26年(う)196号 判決

控訴人 被告人 中野友三郎

弁護人 塚本助次郎

検察官 小西茂関与

主文

本件控訴を棄却する。

当審訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人塚本助次郎の控訴趣意は、記録中編綴の昭和二十六年四月六日付控訴趣意書記載の通りであるから此処にこれを引用する。

原審証拠調の結果、殊に司法警察員作成の吉竹寛一に対する供述調書並に金沢市広坂警察署長の関係書類追送書添付現場見取図二通の各記載によれば、原判示被告人発掘の場所は、金沢市上鶴間町五十番地所在、旧加賀藩主前田家累代の墓地中、第四代前田光高の墓所であつて、其の一辺を約十間とする略正方形の地域に、堀及び木囲をめぐらし、正面入口より約二間程中央寄りの地点に、入口に表面を向けた石造の墓標があり、其の背後に直径約六間、高さ約三間の円形の土盛塚が存在し、該土盛塚の中央地下に前田光高の遺骸を納めた石棺が埋葬されて居り、前田家に於て祖先を祭祀するため、特に管理人を置き、これが管理をなさしめている場所であること、並に、被告人は右土盛塚頂上の中央部を、幅三尺長さ八尺に亘つて長方形に、深さ約五尺に達するまで、掘り下げたものであることを認定するに十分である。弁護人は、「被告人が発掘した場所は、前田光高の墳墓でなく、墳墓を保護するため其の外部に設けられた土盛塚の一部分に過ぎない。」と主張するけれども、刑法第百八十九条に所謂墳墓とは、人の遺骸を埋葬し、もつて、祭祀又は記念の対象とする場所を言うと解するに於ては、前敍被告人の発掘した土盛塚は、前田光高の遺骸を埋葬し、前田家に於てこれを祭祀の対象としている場所として、刑法第百八十九条に定める墳墓に該当することが明かであつて、原審は審理を尽さなかつたものでもなければ、法令の解釈適用を誤つたものでもないから論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三百九十六条、第百八十一条に則り主文の通り判決する。

(裁判長判事 吉村国作 判事 小山市次 判事 沢田哲夫)

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